うたた寝

弘樹サイド:1


先ほどかかってきた野分からの電話では、あと二時間程で帰宅らしい。

「帰って来たら驚かしてやる」

それだけ言い残して電話を切ってやった。

最近の野分は仕事のせいか、暑さのせいか、あまり元気が無いように思う。

今夜は一緒に飯を食えるから、精の付く豪華料理で驚かしてやろうなんて計画を実行中だ。

朝方見たあの顔が料理程度で回復するか分からないけど.....

滅多に作らない手料理にあいつはいつも喜ぶから、これで元気になってくれたら嬉しい。

二時間で病院を出るという事は家に着くまで結構時間があるな......

(肉に下味付けてる間に、とりあえず風呂でも入るか)




野分サイド: 1


「驚かしてやる」

一方的に電話を切った恋人が残した謎の言葉。
一体どんな事が待ち受けているのか.....夜勤担当者と交代までの二時間、
暇を見つけては様々なシチュエーションに考えを巡らせた。

 

ドアを開けたら水鉄砲で打たれるとか?
(いや、まさかヒロさんがそんな子供っぽい悪戯するはずない)
この前ペットショップで見た、子犬を飼う事にした?
(あ、でもうちペット禁止だったな)
まさか裸エプロンでお出迎え....

「は、絶対にありえない」

「ん?草間、何か言ったか?」
(あ、しまった。声に出しちゃったか)
「すみません。ちょっと考え事してて...ただの独り言です」

..........可愛い恋人の姿、想像してました。

「なんか楽しそうじゃないか。これからデートか?」
「ええ....まぁ、そんな感じです」

 

日を追って学ぶ事もやる事も増えていくこの仕事は、ますますヒロさんと過ごす時間を

奪い取っていく。覚悟はしていたけれど、やっぱりヒロさんに会えないのは辛い。

今朝少し寂しそうな顔で見送ってくれたあの人の事を思うと、一分でも早く家に帰りたくなった。

 

「お先失礼します!」

 

今夜はヒロさんとゆっくり一緒に過ごせる。
家に帰ったら一体どんな事が待っているのか......
すごく楽しみだ。




弘樹サイド:2


暑苦しい夏の夜、こんな日は冷たいシャワーですませるべきだった。

一度上がってしまった体温はなかなか下がってくれない。

風呂場の蒸気のせいか、新たに吹出た汗のせいか、乾かない肌に少し苛立つ。

 

「風呂入る前に冷房付けときゃよかった....」

強にした冷房の真下で一時涼み、乾いた喉を潤わしにキッチンへと向かった。

「えーっと、たしか..........お、あった」

冷蔵庫の奥に見つけたビール缶をさっそうと取り出す。

 

「うまい!」

喉を通る液体の冷たさと炭酸のもたらす刺激に、

ようやく生き返ったような心地がした。
仄かなアルコールがゆっくり身体を駆け巡る。
「は〜。こういう時のビール、やっぱ美味いなぁ」
ソファーに座って、やっと効きはじめた冷房の涼しさを満喫する。
手にした缶の冷たさが気持ちいい。

 

リビングの片隅に置かれた時計を除き見た。
野分の帰宅まで、まだ時間はたっぷりある。

 

「とりあえず、これを開けてから飯の支度再開だな」
肌の火照りが冷めるのを待ちながら、冷たいビールで喉を潤わした。




野分サイド: 2


ドキドキしながらドアを開けた。

予想を反して静まり返った家の様子に、すこし拍子抜けする。
(あれ...お風呂でも入ってるのかな?)

 

冷房の効いた部屋の空気が心地よい。
蒸し暑い外とは対照的な気持ち良い温度に、今日一日の疲れが癒されるようだ。

 

リビングに足を踏み込み、ソファーへ目をやると....
そこに横たわる物に、思わず自分の目を疑った。
「.......ヒロさん.....」

 

『驚かせる』って.................
これは、かなり、ビックリです。

 

「ん?........あ、野分。お帰り」
ソファーで寝転がっていたヒロさんが、目を開けた。
「...........ただいま、です」

 

あまりの予想外の展開に、心臓がバクバクいっている。

そんな俺を見て目をぱちくりさせるヒロさんに、どんな言葉で喜びを説明するべきか、躊躇した。

タオルを腰に巻いただけでソファーに横たわる、その無防備な姿に目が釘付けになる。
うつ伏せぎみに横たわったその体勢は、身体の綺麗なラインを一層強調し、

曝け出した脚の艶やかさに、思わず見蕩れてしまう。
「あの、ヒロさん........俺.....」

 

その言葉を続ける前に、ヒロさんの顔が一気に耳まで真っ赤に染まった。

 

「あっ..........こ、これは、風呂上がりに暑かったから....しばらく涼んでいて....」

 

顔を赤くして恥じらうその姿がかわいくて、身体が自然と動き出す。
飛び起きて、逃げようとするヒロさんを後ろから抱きしめた。

 

「俺、すごく嬉しいです」
「いや.....べ、別に、これは、そういう意味じゃなくって.....
飯作ろうと思ってだな.......あ、すまん。すぐ飯の支度するからっ」

 

暴れ出したヒロさんを抱きしめる腕にぎゅっと力を込めた。
肩に顔を埋め、キスを落とす。
石けんとシャンプーの仄かな匂いを、首筋から吸い込んだ。

 

「は、はなせよ....お前、腹減っただろ?」
「今日は遅めの昼食をとったから、まだ大丈夫です」
あたふたするヒロさんが、可愛いくてたまらない。

 

「ヒロさん、冷房で肌が冷たくなってる」
脇腹を撫で上げると身体がビクッと飛び跳ねた。
「夏だからって油断してたら風邪引きますよ」
「だから、すぐ服着てくるから、離せっ!」
「俺が暖めてあげます」

 

この人はいつも、予想外の行動で俺を驚かす。
(ヒロさん、俺、こういうドッキリはいつでも大歓迎です)



注:ここから先15歳以下のお子さま立ち入り禁止!

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