「白芥子に羽もぐ蝶の形見かな」

 

目を、奪われた。

その涙に……。


腕をとって
無理やり、
輪の中に連れて行っていって
そして

頭を撫でる
安心、させたくて

時々、目を向ければ。
笑ってはいないけれど
もう、泣いてない

そのことに
ほっとして―――
でも、独りにしたら
また泣いてしまうのではないかと
心配で……

それに、
これで終わりにしたくない
また、会いたい
そう、思ったから。


だから
家まで押しかけて

「いいかげんにしろ」

そう貴方が怒り出した時
嬉しかった

ただ擦れ違っただけで
印象の残らない人から
貴方の印象に残る人になったのだと
そう、思えたから

その初めての気持ちに
戸惑いながらも

あなたといるだけで
胸がぽかぽかして
幸せな気分になれて……

だから、時間を作って
会いに行って……

けれど
初めて見た
ヒロさんの幼馴染みに
胸がかき乱された

その髪に触れて
心配そうに
優しく見つめる瞳が
たまらなく嫌で……

『渡さない!!誰にも!!』

生まれて初めての
独占欲。

俺が捕らえられた
その瞳と涙を
隠して
抱き締めて

「ヒロさんは俺がもらいます」

そう宣言して
部屋の中へ連れ込む。

この行動は、
ガキだと思う
けれど
言わずには
いられなかったから


その後

「好きです」

告白して
そのしなやかな身体に
直接触れて……

「あ…、ああ」

初めて抱いた貴方は
綺麗で、淫らで
もう、夢中になった。


付き合うようになってからは
会える時間を
出来る限り作ったつもりで

抱く時は
俺に溺れて欲しくて
俺を求めて欲しくて
良い場所を探り出して
そこを中心に攻め立てて
貪って……

甘くて切ない時間を過ごした


俺が大学へ行くようになれば、
当然、お互い忙しくなって
会える時間が

極端に少なくなる。

だから、いつの間にか
ファミレスで
夕飯か夜食かを共にするのが
デートになった。


「留学?」

「はい。ウチの大学の姉妹校なんですけど…」

今でさえ
時々しか会えなくて
寂しくて

そう思ってたから
留学すれば
もっと会えなくて
もっと寂しい想いをする。

それは、
貴方もだと思うから

「あ、でも寂しくないですか?」

「何で?」

そう言われて
ショックだった。


でも

「夢はかなえる為にあるんだろ?」

貴方がそう言ってくれて

「自分がやらなくて誰がするんだよ」

寂しいと思うよりも、
俺の夢を応援してくれてるのだと
そう、思って

だから
離れたくないけれど
貴方にもっと近付きたいから
留学を決心した




「の、わき」

自分を求める
小さく唇から漏れる言葉に応えて

「ヒロさん」

柔らかい唇に
何度も口付けて

気を失わせるまで
何度も貫いて
嬌声を上げさせて

「ヒロさん」

目を閉じたその顔に
張り付いた髪を
そっと払って

もう一度、
優しくキスをして

「ヒロさん」

留学前に

あと何度、会えるだろう
あと何度、抱き合えるだろう

「愛してます」

そっと抱きしめて呟いた。


眠る貴方は
白い芥子の花のよう

俺は
その花に魅了されて
もう、他の花に
魅力を感じない

「ヒロさん」

どんなに離れても
貴方だけを想ってます

心は、貴方の側に……

だから

「絶対に」

がんばって
早く貴方の元へ
帰りますから。

「浮気、しないでくださいね」


 



<<コメント>>

今回のリクエストは、松尾 芭蕉の俳句から。「白芥子にはねもぐ蝶の形見哉」
芭蕉が杜国に初めて会った、野ざらし紀行の旅で、
杜国との別れ際に、別れを惜しんで彼に贈ったものですが。

最初にリクエストを受けたとき
別れの歌!?いや、正確には別れを惜しんだ歌!?羽根もぐ……!?
躓きました。正直……(苦笑)
野分は、寝顔の写真とったりとかしてたし、
むしろ、白芥子の花びらをうばった方じゃ……(殴)とか思ったり

リク要望では「野分がヒロさんにおぼれていく」ともあったので
出会いから留学までの間で、溺れていくを目安に書き……
やはり、リクに答えられているのか、わからないので
月の輪 様にご相談メール

返信されてきたご要望に応えるべく……
ちょびっと文章を追加させて完成しました(^^)

公開が遅れて、申し訳ございませんでした

2007.7.14 

 

りぃ。様、素晴らしい作品を有難うございました!

月の輪は、感動しております!

∩(〜(・)〜)∩ BACK