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純情ミニマム〜ファンタジー編

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<1>


いつもの様に秋彦と秘密の森で待ち合わせをする。
日差しはまだ高く、緑のトンネルの間でピカピカ光っていた。

ガサガサッ

茂みを掻き分ける音と共に
秋彦が近付いてくる気配を感じて後ろを振り向いた。
「秋彦?」
姿を見せたのはまぎれも無く秋彦。
けれどその格好を見た弘樹は思わず眉を寄せて尋ねた。
「なに、その服?」
まるで絵本の中から飛び出してきた様な王子様。

キラキラした王冠。ふわふわしたシャツ。大きなシルクのリボン....

「弘樹こそ」
「え?」
そう言われて、自分の手元と足下を眺めた。
「.....なんだコレ」

頭に固い帽子が乗っかって、
ゴアっとしたマントを着ている自分に気付く。

「魔法使いだね。可愛いよ」
「なっ.....なに言ってんだよ.....お、おとこに、かわいいなんて....」
「じゃ、そろそろ行こうか」

緊張して固くなった弘樹の手を取って
秋彦は秘密の基地の外へと促した。


先へと進んで行く秋彦の歩調に
この動きにくい格好では付いて行くのが大変で
「ちょっと、待てよ」
そう抗議の声を上げる。

そして
基地の外に広がる風景に思わず息を飲む。

(うわぁ....)

色とりどりの花、ピカピカ光る水晶。

「きれいだね」
「.....うん」

きっとこれは夢に違いない。
キラキラの世界に、王子様の姿をした秋彦。


.......夢なら、別にいいか。


そう思って繋いだ手を握り返した。




しばらく歩いているとふと思い出した様に
秋彦が林檎をポケットから取り出す。
カリッと音をたてて林檎に齧じり付くと
その場に甘酸っぱい匂いが漂った。

「弘樹、一緒に食べる?」

そう聞かれた弘樹は丸々とした林檎を凝視する。

(そのまま?.....か、かんせつキス!?)

「おいしいよ。さっき森の入り口で会ったおばあさんに貰ったんだ」

秋彦がもう一口、林檎に口をつける。
蜜のしたたる林檎の噛み痕に口を当てる自分を想像すると
弘樹の顔は一瞬にして真っ赤に染まる。

(......どう、しよう)

食べてみたい
そう思うけれど

俺、おとこなのに.....


心臓の鼓動が早まって
このままでは 爆発してしまいしそうだ。


勇気を出して手を差し出そうとしたその瞬間
秋彦が煙の様な、霧の様な靄に包まれる。

「秋彦!?」

ボーゼンとしながら散り散りとなる煙を見つめた。


(......秋彦が、消えた?)


そう思って目を凝らしてみると
煙の間から茶色くて丸い物体が姿を現す。
さっきまで秋彦の居た場所に大きなクマの縫い包みが転がっていた。
良く見てみるとフサフサのリボンが
先ほどまで秋彦が身に付けていた物と同じだ。

「もしかして......」

秋彦がクマの縫い包みになった!?

「ど、どうしよう.......」



頭がパニックを起こして
どうしていいのか分からなくて

一人、その場に立ちすくんだ。

 

 

<2>



俺は今魔法使いなんだからきっと魔法で戻せるはずだ!

そう思って魔法辞典を引いてみるが
それらしい魔法についての項目が見つからない....


どうしていいかわからなくて
それでもなんとかしたくて
ギュッとクマの姿をした秋彦を抱きしめる。


「秋彦、なんとかして俺が元にもどしてやるから.....」

あぁ.......でもどうすればいいのだろう。

分からなくて
くやしくて
涙が出てくる


シクシク泣いていると下から袖を引っ張られた。


「.......ん?」


ふと見下ろすと、そこには幼い子供が佇んでいた。
ぱっちりとした大きな瞳がじーっとこっちを見上げてくる。

「だれだ、お前.....」
「おにいさん、だいじょうぶ?」

泣いてるとこみてんじゃねー...
そう怒鳴りつけてやろうと思ったのに
ふさふさの黒髪を揺らしながら服の袖を引っ張る
そのしぐさに目を引かれて、何も言えなくなってしまう。

「なかないで」

そっと手を握られた。

「だいじょうぶです。おれがたすけてあげます」

にっこり微笑みながらそう言われると .......
どうしてだろう?


少し、心が軽くなった。







「おともだちがクマになっちゃったの?」
「......うん」

詳しいいきさつを話すとその子供は首をかしげて考え込んだ。

「おれ、もとにもどすおくすりのばしょ、しってます」
「え!?ほんとか?」
「はい」

ここでこいつと出会ったのはきっと運命だったんだ!

(秋彦、絶対元にもどしてやるぞ....)

嬉しくて顔が自然と弛んでくる。

「ありがとう」

そう告げると、その子供は頬をうっすらと染めた。
そしてじっとこっちを見つめながら
真剣な顔をして尋ねてくる。

「あの、おくすりあげるかわりに、おねがいしてもいいですか?」
「あぁ。なんだ?おれに出来る事なら、なんでもしてやるぞ」
「おれにおおきくなるまほうをかけてください」

大きく? まぁ、こんなに小さかったら不便だろうなぁ。

「おう。ちょっと待てよ。辞書で調べるから....」


大きくなる魔法は.....と......


都合良く項目が見つかって、
そこに書かれている呪文を口にする。


すると目下にあったその身体がぐんぐん大きくなっていった。


(うわぁ....すげぇ....)

自分のかけた魔法の成果に感心していると
一頭分程高い位置まで背が伸びた所で、成長がぴたっと止まる。

「すごいです!ありがとうございました」

たどたどしかった口調もはっきりとして、自分より少し年上に見えた。

身長を大きくするだけでなく、年齢も上げる魔法だったのだろうか?
じろじろと見上げて観察していると柔らかな微笑みが顔に浮かぶ。
弘樹は思わずその表情に目を奪われた。

「あなたはすごい人です」
「なっ....そんなの、別に、じゅもんとなえた、だけだし.....」

真っ直ぐ見つめながらそう言われると
ドキドキしてしまうのは、なぜだろう。

顔が火照ってくるのを隠したくて思わず俯いてしまう。
すると手を取られ、手の甲にキスをされた。

「かわいい」
「.....っ....ば、バカか?お前!?キ、キ、キザなこと、すんなっ!!」

その手を振払うとクスクス笑われた。

「俺、野分って言います。よろしくおねがいします」
「.....俺は、上條弘樹だ」
「じゃぁ、ヒロさん。行きましょうか?」


ヒロさんってなんだよ、それ.....


文句を言ってやろうとしたのに
腕を掴むその手が熱くて ......


ドキドキして



何も、言えなくなった。

 



<3>



野分がバイトをしている薬局へと二人で向かった。
こんなに小さいのに(今の姿だと年上見えるけど...) バイトだなんてえらいと思う。

どうやらそこで働く薬師が
姿を戻す薬のレシピを持っているらしい。


「ここです」


古ぼけた館の入り口のドアがキイッと音をたてて開かれた。


『津森薬品店』と書かれた大きな看板がドアの上に設えられている。
店には様々な薬壷が棚にずらりと並べられ
一歩足を踏み入れると独特の匂いが充満した。


「店長」
「あれ?お前、野分か?」

白いガウンに身を包む、20代後半くらいの男が奥から顔を出す。

「どうした、お前。でっかくなったなぁ....」
「この人にまほうをかけてもらったんです」

野分に紹介をされ、ぺこりと頭をさげた。

「こんにちは」
「へぇ〜」

(へぇ、って....)

初対面の相手にはきちんと挨拶する様に、と
親に躾けられてきた俺としてはこの人をバカにしたような態度は腹がたつ。
じろじろと嫌な視線を投げかけられて自然と眉間に皺がよる。

「店長、この前作った『姿戻しの薬』ってまだあります?」
「あぁ...あったんじゃない?ちょっと待ってろ」


薬師が店の奥へ姿を消すのを見届けてから
野分の腕をひっぱり、確認する。
「おい....本当にだいじょうぶなんだろうな?」
「何がです?」
「あいつ作った薬って信用できるのか?」
「あぁ、それなら大丈夫です。腕はたしかですから」

こそこそ話していると小さな瓶を手に薬師が戻ってきた。

「で、これどうするつもりなんだ?お前ら」
「このクマになっちゃったお友だちを元にもどしたいんですって」
「え、コレ?」

(コレって言うなっ!)

「じゃぁお代は.....そうだなぁ。 子供から金取るわけにはいかないし....」

しばらく考え込むと変な目線を投げかけられて
.....嫌な、予感がする。


「ほっぺにキス、とかどう?」

「えぇ!?」


(冗談じゃねーぞっ)

でも、

秋彦を元に戻してあげないと.....

どうしよう

キス、くらいなら.......
いや、でも.......


「な〜んてね。冗談だよ。怖い顔しない」

からかわれた、そう気付いて顔が真っ赤になる。

はい、と吹き出しそうになるのを堪えながら
薬瓶を手渡すそいつをキッと睨み付けた。

(くそっ)

くやしい......

.....でも、今はそれどころじゃない。




これでやっと秋彦が元に戻るんだ。


<4>



クマの縫い包みを椅子の上に座らせて
その上から小瓶に入った粉を振り掛けた。


こんな物で本当に元に戻るのだろうか....

疑いつつも今はただ静かに見守るしかない。


しばらくたつと椅子の周囲が霧の様な、煙の様な靄に包まれる。
森で起こった現象と似ている....
期待に胸を膨らませながら弘樹はじっと目を凝らした。


「秋彦!」


霧がかった空気が散りはじめると
そこから秋彦が姿を現す。

元に戻った....
その姿を確認すると安心感で一気に身体から力が抜けた。

よかった。

これで、一緒に家に帰れる.....


「弘樹。元に戻してくれて、ありがとう」

にっこり笑いながら礼を言われると気恥ずかしい。

「.....おう」

めったにおがめない秋彦の笑顔。
自分だけに.....向けられる。
だからこそ、それが嬉しかった。

気恥ずかしくて、顔が真っ赤に染まり上がる。
頭の上に手を添えられる気配を感じて思わずビクリ、と身体が揺れた。
頭を撫でられる感覚がなんだかくすぐったい。


「じゃぁ、弘樹。そろそろ帰ろうか?」


そう秋彦が口にした瞬間

横から伸びてきた手に腕を引っ張られた。


「おい、野分!ちょっと、なんだよっ」
「だめです!!」
「はぁ?....なに言って...」


野分に無理矢理店の外へと連れ出される。


「こらっ、なにすんだよ!?」


「俺はいやです!」
真剣な切羽詰まった表情で見つめられた。
「.......帰らないで」
両肩に置かれた手に力が入る。
「俺じゃだめですか?」

(え?)

すがるようなその目に思わずドキっした。

「ど、ど.....どういう、意味だよ......」

大きな漆黒の瞳に吸い込まれそうだ。
その深い闇に引き付けられて、目が離せない。

「俺とけっこんして下さい」
「はぁ!?」
「好きなんです」
「って.....男どうしだぞ!?俺ら」
「俺の事、きらいですか?」
「イヤ、そうじゃなくって、問題は....」


問題は

俺が好きなのは、秋彦なわけで.....


なのに
どうして
こんなに今ドキドキしているんだろう?


「.....ヒロさん、俺と一緒になるの、嫌ですか?」
「べ、べつに、嫌だとは言ってないだろ....」
「でも、だめなんですね.....」

しょんぼりと、悲しそうな目で俯かれると胸が痛む。
その原因が自分なのだと思うと罪悪感に襲われた。

「野分」

そんな顔してほしくない。
させたくない。

「大人になったら....考えてやっても、いい.......かもしれない」

自分の言った台詞に顔から火が出そうになる。
嬉しそうに見つめてくる野分の視線がそれに拍車をかけた。


.......恥ずかしくてこのまま消えてしまいたい。


でも、喜ぶ野分の笑顔がなんとなく嬉しかった。


「ヒロさん、大好きです」



キスの気配を感じて
ぎゅっと目を閉じた。


<5>



「.....ん?」


目を開けると明るい朝の日差しが部屋中を満たしていた。
暖かいその温度に包まれながらぼんやりと天井を見つめる。
外から雀の軽やかな泣き声が聞こえた。

朝だ、そう認識しながらゆっくりと瞬きを繰り返す。

瞬きをする度に、先ほどまで見ていた夢がじょじょに擦れていく。


全てを忘れてしまうその前に
記憶の断片をかき集めた。


秋彦が、変な格好してて

一緒に秘密の基地で....

そして、笑顔が眩しい小さな子供に会った。


名前は、なんだっけ?


「ヒロちゃん!起きなさい」

物思いに耽っていると部屋のドアを豪快に開けて母親が入ってきた。
そしていつもの様に叩き起こされる....


「いってぇ....」
「ぼーっとしてないで。学校遅れるわよ!」
「.....暴力反対」
「もう25回も起こしたのよ。こうでもしなきゃ起きないでしょう?」

何かと手の早いこの母は、手加減というものを知らない。
自分が将来乱暴になったら絶対この親のせいだ。


「ほら。もうすぐ秋彦君迎えに来るわよ。早くしなさい」


夢の記憶はすでに薄れ始め
ぼやけた感覚しか掴めなくなってしまった。


ただ あの暖かい笑顔が
心に残る



.....また会えたらいいな。



そう思いながら大きな伸びを一つした。










<猫目石様のコメント>

 

パロディー風お子さま話。
普段と違う傾向で 不安でしたが楽しかったです!
楽しんだのは自分だけ?.....(泣)...
まぁいいかぁ(<こらッ=3)
え〜っと.....お子さまワンコ野分落書きして一人楽しんでました(笑)
しっぽ振って耳立てて「ヒロさん!あそんで!」とか言わせて。

みつる様とのメールやりとりしていた時に出てきた
「けっこんしてください」ネタも使わせて頂きました ☆
魔法にかかって猫になっちゃうヒロさんとかもやりたかったなぁ。
野分に少しずつ飼い慣らされていくプライドの高い美猫とか。
「シャーッ!!」とか言ってたのが徐々にゴロゴロ言いはじめる...

こんなですが最後まで読んでくれた方、ありがとうございました////

2008.4.8



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∩(*@(∀)@*)∩キャー!キャー!キャー!

猫目石様宅の、10,000hit記念フリー配布小説

可愛いミニマムファンタジーのお話を頂いて来ちゃいました!

同志の皆様から寄らせれたオープン・リクエストの中には、

ちゃっかり月の輪の「ミニマム野分が見たい」リクも!

<(*^(Д)^*)てへ

 

 猫目石様、10,000hit(1月12日)突破、本当におめでとうございました!

それから4ヶ月足らずの今、もう20,000hitを越えているんですから

猫目様は本当にすごい人です!

これからも宜しくです☆ 

2008.5.5

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